2018年1月24日水曜日

胸郭出口症候群 


胸郭出口部とは、前斜角筋、中斜角筋、鎖骨、第1肋骨で囲まれた部分をさします。この隙間には、上肢につながる神経(腕神経叢)と血管(鎖骨下動脈・静脈)が通っています。

胸郭出口症候群とは、胸郭出口部が狭くなり、そこを通過する神経や血管が持続的に圧迫や牽引といった刺激を受けることでおこる、一連の神経血管症状のことです。

1) 胸郭出口部で圧迫され、機械的刺激を受けている
2) 胸郭出口部の遊びがなくなり、牽引刺激を受けている
3) 持続的に牽引され、伸長刺激に過敏になっている

胸郭出口部を構成する斜角筋・鎖骨下筋・小胸筋の過緊張、肩甲帯の下垂した姿勢が、相互に関連して症候群をつくっています。とくに瘢痕化してこわばった斜角筋が、胸郭出口部を狭くします。

胸郭出口部の近くでは、頚椎の両側を自律神経が走行しています。そのため、胸郭出口症候群が長期にわたると自律神経の働きも障害され、複雑な症状が現れることもあります。

そのため胸郭出口症候群は、神経血管症状だけでなく多彩な随伴症状もみられます。



1.神経血管症状

胸郭出口部の筋肉の過緊張により、上肢につながる神経と動脈(静脈)が同時に圧迫されるため、次のような症状が現れます。また、シビレがあっても、触覚は鋭敏に分かることが多いといいます。

1) 首肩のコリ、痛み
2) のどの圧迫感
3) 肩甲骨周囲のコリ、痛み
4) 背中のハリ感
5) 上肢の痛み・シビレ感
6) 上肢の脱力感・よく物をおとす
7) 手指の冷感
8) 手指のふるえ・こわばり
9) 発汗異常等



2.多彩な随伴症状

長期にわたり改善しないと、頭部・全身に症状が広がります。さらに、頚部のコリが自律神経(頚部交感神経幹)に悪影響を与えることがあります。こうして、下記のように多彩な症状が現れるようになります。

1) 頭痛
2) めまい
3) 吐き気
4) 不眠
5) 目の奥の痛み・かすみ
6) 耳鳴り
7) 全身倦怠感
8) 集中力の低下
9) 胃腸障害



頚椎症との併発

頚椎症になると二次的に、斜角筋も過剰に緊張するようになります。そのため、頚椎症に続発して胸郭出口症候群を合併することがあります。



障害を受けやすい部位

胸郭出口には、障害を受けやすい部位が4つあります。その部位により頚肋症候群、斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋(過外転)症候群と分類されることがあります。しかし、それぞれの部位が相互に関連しながら症候群をつくります。そのため現在は、明確に区分して症状を分類することはないかもしれません。



姿勢による症状の増悪

次の1)から4)の動作や姿勢は、胸郭出口部を狭くします。そのため症状が増悪(×)します。また5)から7)では、胸郭出口部にかかる負荷が軽減されるので、症状が緩和(○)されます。

1) 電車の吊革につかまるように、腕を上げていると辛い--×
2) 洗濯物を干していると辛くなる--×
3) 買い物袋を手に下げるなど、腕が引っ張られていると辛い--×
4) 仰向けで寝ていられない--×
5) 食事の際も、無意識に肘をついている、楽--○
6) 猫背の姿勢が楽(肋鎖間隙を広げる)--○
7) 腕を組んでいると楽--○



頑固な肩こり

頑固な肩こりは、胸郭出口の障害によるものが少なくありません。下記のような症状が複数重なる肩こりは、胸郭出口症候群かもしれません。

1) 治療のあとしばらくの間は楽だけど、すぐに元に戻る
2) 症状がなかなか改善しない
3) 広範囲の領域にまたがる
4) 肉体的には疲労しているわけでもないのに、倦怠感がある
5) 頚椎症という診断を受けている
6) 交通事故などの外傷あり(むち打ち損傷、鎖骨・肋骨骨折、筋や腕神経叢の損傷)
7) 不良姿勢 (直頸椎、猫背、なで肩体型、いかり肩体型)
8) 上肢および手指を酷使する職業
9) 腕を上げたままの姿勢で仕事をする職業



頚椎症性神経根症との違い

胸郭出口症候群は、頚椎症性神経根症と類似した症状が現れます。ただし、以下のような違いがあります。



1.神経血管症状

頚椎症性神経根症は、主症状が痛みです。デルマトームに従って知覚鈍麻もおこります。動脈を圧迫していない神経根症では、冷えは感じません。

胸郭出口症候群は、上肢につながる神経と血管が、同時に刺激を受けています。そのため、腕全体のピリピリ、ジリジリした痛みとともに、倦怠感・シビレ感・手指の冷感がおこります。



2.性別

神経根症は、中高年の男性に多く発症します。胸郭出口症候群は、20~30歳代の女性に好発する傾向にあります。



3.上肢の動きで増悪

健胸郭出口症候群では、上肢の挙上位や外転位など、腕の動きで愁訴の誘発や増悪がみられます。けれども神経根症と違って、頚椎の動きだけで症状の増悪をみることはありません。



原因となる2つの外傷

胸郭出口症候群の大部分は、頚部外傷により瘢痕化した斜角筋により生じるとされます。外傷といっても、事故による「一撃外傷型」と日常生活や就労の負荷による「累積外傷型」があります。



1.一撃外傷型

交通事故による外傷を契機とした胸郭出口症候群は、少なくないとされます。また、肩甲胸郭関節は動きが大きいため無理が蓄積しやすく、加齢変化・組織の変性を助長します。



2.累積外傷型

日常負荷の累積として肥満、巨乳、加齢により肩甲帯が下垂することで発症するといわれます。肩甲帯が下垂した姿勢・体型では、腕神経叢が持続的に牽引され、神経内の血液循環が障害されます。



頚肋症候群

第7頚椎横突起が、先天的に肋骨化して長くなり、胸郭出口部で神経・血管走行を障害しています。腕神経叢の絞扼をおこしやすく、上肢帯や上肢の運動や感覚が障害されます。鎖骨下動脈は、圧迫される場合とされない場合があります。

頚肋症候群は低頻度といわれます。ただし、頚肋が痛みやシビレの直接的な原因なら、保存療法は効果が薄いと想像します。当治療院では、難治性の症状については病態を推測し、病院での検査をお勧めしています。



文献

加瀬建造(1987)写真・イラストで見る症状・病気別 脊椎動可法Ⅰ.科学新聞社.


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